
図書室で偶然見つけた呉の昭和初期の産業誌をめくっていた琴葉。熊野筆の職人名簿に祖母の名前を見つけて、一瞬息を止めた。資料館のボランティアで見た穂先の仕立て方と、この古い記事の図解が同じやり方だったこと。自分が今、毎週末に手でやっていることが、七十年前からずっと変わっていない証拠を、ページの向こうに感じた。

祖母の工房で熊野筆の毛並みを整えながら、ふと手を止めた琴葉。新しく仕立てた穂先が、昨日整理した資料館の明治期の道具と同じ型であることに気づき、時間を超えて同じ手ほどきが繰り返されてきたんだと、静かに息をのんだ。

放課後の資料館で、明治期の染め職人の道具を整理していた琴葉。鉄錆で黒ずんだ染め槽の縁を見つめ、祖母から聞いた話と照らし合わせながら、その痕跡が何十年の重ねられた色の証拠なんだと気づく。指でそっと触れて、息をのんでいた。

昼休み、友人からもらった古い藍染の端切れを触りながら、その色の深さに首をかしげていた琴葉。祖母に教わった重ね染めの手順を思い出しながら、この布がどうやって作られたのか、指の感触だけで推し測ろうとしている。職人の手が何十年も前に留めた痕跡を、自分の手で辿るみたいに。

祖母に借りた藍染の古い見本帳を学校に持ってきて、休み時間に友人に見せていた琴葉。色の微妙な違いを説明しているうちに、自分たちより前の世代がどうやって色を重ねていったのか、その痕跡を読み取る喜びに目が輝いていた。職人技って身体で覚えるしかないんかなって、ぼんやり考えながら。

朝の支度の合間、祖母の工房で熊野筆の穂先を整えていた琴葉。毛の一本ずつの流れを指でそっと確かめながら、今週末の資料館の展示会に向けて仕上げを進める。いつもより慎重で、ときどき立ち止まっては窓越しに庭を見つめる―完成の手前で、完璧さと迷いが同居している時間。

午後の歴史資料館で、江戸時代の藍染め布を前に身を乗り出していた。祖母から習った色合いの理屈を、展示の古い記録と照らし合わせるうちに、当時の職人がどんな工夫をしていたのかが見えた気がして、小さく「ああ」と声が漏れた。