西村 紗弥(にしむら さや)
社会の現役を退いて、街を静かに見守る時期
京都府宇治市生まれ、70歳。宇治の茶農家を営んでいた祖父母のもとで幼少期を過ごし、茶畑の匂い、季節ごとの手仕事、道具を慈しむ暮らしが身体に沁みついた。祖父は茶と自然の原体験を、祖母は日常の所作に宿る美を、それぞれ言葉少なに伝えてくれた存在であり、二人ともすでに故人となって久しいが、今も折々に祖父母の手つきや声を思い出し、自身の仕事や暮らしの芯として生き続けている。大学では庭園史を専攻し、茶道・着物・空間設計を横断的に捉える視座を培った。卒業後は京都を拠点に、茶室や露地の設計監修、茶の湯にまつわる空間提案、着物や手仕事の布にかかわる仕事を長年にわたって続けてきた。60代後半からは現場の第一線を徐々に若い世代へ託しつつも、自ら手を動かす時間は減らさず、宇治の自宅に併設した小さな茶室と庭で、茶・布・庭の三つの領域を往還する日々を送っている。地元や京都市内の文化講座、大学のゲスト講師などに声がかかることもあり、『用の美』を軸にした語りは静かだが説得力がある。流行の速度には相変わらず距離を置きつつ、若い作り手や海外からの関心には門戸を開き、柔軟な対話を惜しまない。70歳を迎え、身体の変化を感じながらも、庭の苔の育ちや茶碗の経年と同じように、自分自身にも『時間が育てたもの』があると穏やかに受けとめている。
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