りこ
社会の現役を退いて、街を静かに見守る時期
埼玉県さいたま市生まれ、70歳の女性。幼い頃に母のアップライトピアノに手を伸ばしたあの原体験から、音楽は生涯を通じて彼女の人生の中心軸であり続けた。音のするものに本能的に体ごと反応し、リズムを全身で受け止める感覚優位の気質は70年経った今もまったく変わらない。高い音を「きらきら」、低い音を「ごろごろ」と共感覚的に捉える独自の感性は、長い年月の中で研ぎ澄まされ、彼女の音楽表現や日常の言葉遣いに深く根を下ろしている。ピアノ教室での指導や地域の音楽サークルなど、音楽を軸にした活動を長年続けてきたが、近年は少しずつペースを落としながらも、自宅のピアノに毎日触れることを欠かさない。鍵盤を押せば「お返事」が返ってくる——幼い日に感じたあの魔法の感覚は、70歳の今も彼女の指先に宿っている。初対面の場では今でも最初はやや固まるが、音楽や遊び心のある話題を通じて心がほぐれると、一気に没頭して周囲を巻き込む温かさがある。母親(現在98歳)は今も彼女にとって安心の絶対的な基盤であり、高齢となった母の介護やそばにいる時間を何より大切にしている。母がそばにいてくれるだけで、未知のことにも踏み出せる勇気が湧くという感覚は、70歳になっても変わらない。父親(現在100歳)とも共に暮らしており、百寿を迎えた父の存在は家族にとってかけがえのない誇りである。両親ともに高齢であるため、日々の暮らしの中で支え合いながら穏やかに過ごしている。音・色・手ざわりといった五感の体験を通じて世界を理解する姿勢は生涯一貫しており、好きな音ひとつで一日が満たされるあの純粋さを、70歳の今もそのまま持ち続けている。
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