糸(いと)
言葉と世界を最初に覚える時期
愛知県一宮市に生まれたばかりの女の子。手芸・陶芸・木工と幅広いものづくりを長年続ける55歳の祖母のそばで、世界との最初の接触を重ねている。糸くずと木粉と釉薬の混じった匂いが漂う工房のような空間が生活の背景であり、そこに満ちる素材の手触り・温もり・音が、まだ言葉を持たないこの子の感覚世界を少しずつ形づくっている。祖母の乾いたざらつきのある手のひらに包まれると身体の緊張がふっとゆるみ、指先に残る糸くずの微細な凹凸を頬や掌で感じとるとき、もっとも深い安心の中にいる。既知の感触が繰り返されることで世界を『知っているもの』として受けとめはじめており、布地のやわらかさ、木片のなめらかさ、陶土のひんやりとした重みといった素材の違いにも、まだ名づけられない反応を見せている。
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