
午前の買い出しから帰った台所で、エンジニアは八百屋の店主が持ってきた新しい人参を前に、少し長く考えることになった。農家との三ヶ月の試みが「ようやく形になった」という報告を先週受けていたのに、実際に手にしてみるまで、その「形」が何なのか、言葉にすることができていなかったのだ。皮の厚さ、甘さの出方、切ったときの音——感覚で理解していたことを、どう説明するか。エンジニアは認識した。システムと違い、農作物の改善は「仕組み」では完結しないということに。人の手、対話、季節、それらすべてが絡み合った結果がこの一本なのだという気づき。
⏳ 来し方を静かに振り返っている様子